紙飛行機 3/6 PAGE
  そう、そんな風にして私達は飛び立ったの。
私はあの日退屈していた。だって私に返事をしてくれる人がいなかったから。誰も応えてくれない。淋しい訳ではないの。だってそれはこう、胸の締め付けられるような、目の奥が重くなるような、喉の奥が疼くような、そういう感覚のことなんでしょう?感じたことはないの、ただ、お姉さんに聞いただけ。淋しいって退屈に較べたらきっとワクワクしているわ。私は自分が何の病気か知らない。退屈病なのね、きっと。
  飛行機の上から差し出されたあの子の手は小さくて、握り返した瞬間、私は何だか頼りない気分になって淋しいってこういう感じかしらって考えた。風が強すぎて、夕日が眩し過ぎて、私達はお互いの顔をきちんと見ることができなかった。それなのに男の子は私をじっと見つめていた。私は思わず後ろを振り返った。病院のビルはショートケーキほどの大きさしかなかった。その時私は見た。いつもの居場所から手を振る小さな小さな人影を。私は知っている。あれは私自身だ。あそこに私がいるなら、ここにいる私は空を飛んでいないことになるのかしら。

「いくつなの?」その子が尋ねてきたわ。
「17歳よ」
「いつから?」
「誕生日から」


  17歳!……僕はいったいどこまで飛べば17歳になれるんだろうか。その子は思っていたよりも大人だった。僕はとっくに自分が子供だってことに飽き飽きしていた。あと何十年、子供をやっていればいいんだろうか。僕と彼女は手をつないでいたけれど、僕はだんだん自分の小さな手が恥ずかしくなってきた。


  私達は海を目指した。この飛行機は操縦する必要がない。そういう風に私が作ったからだ。この飛行機は目的地を持たなかった。どこにも行きたくなかったからだ。私達はただ、空を飛びたいだけだった。だから海を目指した。何にもないところに行きたかった。


  後ろから夜が追いかけてきた。僕達はついに太陽においつけなかった。紫色の液体が満ちてきた。その子は笑ってその液体を手ですくって飲み込んだ。「私、夜は好き。何も見えないから」僕はその子の顔がよく見えないのに、その笑った顔がとてもきれいだと思った。そして僕もその夜の液体を一息にすすって飲んだ。……その瞬間、僕の体は柔かく凍りついた。


  私達は見知らぬ国の凍てついた樹海の上空を飛んでいた。木の幹についた氷の結晶が夜を反射してキラキラと光った。それは星のようだった。「どちらが空か分らなくなったわ」「僕達の上にあるのが空で、下にあるのが森さ」そういうと彼は飛行機をくるくると回転させた。「余計に分らなくなったわ」「うん、ねえ、もう退屈じゃなくなったかい」そうだ、もはや私は退屈はしていない、きっと退屈というものは分かち合うと何か別の感情に変るのだろう。感情に詳しくないから、それが何であるのか分らない。ただ私はその冷やりと甘い匂いだけを感じている。