★★★ スモークスモーク ★★★

1998/11 早稲田銅鑼魔館にて公演

自分が自分だと気づく前、
のぞみさえすれば
アフリカの
サバンナで暮らすキリンや
ベランダで
日向ぼっこするサボテン、
夕闇に長く伸びる影や、
木立を吹き抜ける風にも
なれると考えていました。

ずっとずっと前の話です。
おそらく別の王国に
暮らしていたのです。

不思議なことに時々、
私は電車に乗っていて
その王国を
通り過ぎることがあります
そしてたった一度だけ、
乗っている電車が
そこに停車したことが
あるのです。
降りてみようか迷って
周囲を見まわすと、
みんな気後れしたような
少し切ない表情で
外を眺めているだけです
誰一人として
降りる乗客はいません。

アナウンスが出発を告げ
車両のドアが閉まると、
みんな淋しいような
ほっとしたような
顔になりました。
もちろん、私もです。

あの時の、
ドアの閉まる音が
今でも耳に
焼きついています。
あの音が、
現在の私と王国を
静かに穏やかに
遠く隔てているのです。
これは見ることは
できるけれど
決して
触れることはできない
ケムリの王国の物語です。

戻る